真実の瞬間(Moments Of Truth)とは、もともとは「闘牛と戦う闘牛士が、最後のトドメを刺すこと、またはその瞬間」を表す言葉で、ビジネスの現場では、「試合を決定づける一撃、もしくはその一撃を与える瞬間」と言う文脈でよく使われる言葉。
ただし、闘牛とは違い、ビジネスは最初の一撃が重要です。なぜなら、ビジネスはどう最初に相手(お客)の心に深く突き刺すことができるかどうかで全てが決まってしまうからです。
この言葉がビジネスの世界で使われるようになったのは、スカンジナビア航空の元社長であるヤン・カールソン氏が著書の中で、使ったことから。
「現場の従業員の最初の15秒間の接客態度が、企業の成功を左右する」
彼は、この「真実の瞬間」に全てをかけ、赤字で苦しんでいた同社をわずか一年で超一流のサービス企業としてその名を轟かせ、立て直しました。この考え方は、その後P&GやGoogleに受け継がれ、現在はFMOT・SMOT・ZMOTと3つの「真実の瞬間」が重要視されています。
- ▷FMOT
FMOT(First Moment of Truth)とは、消費者が店舗で商品を選ぶ際に最初に感じる印象のことです。この言葉は、2004年にアメリカのP&G社が提唱しました。
当時、P&G社はテレビCMなどの広告に多額の費用をかけていましたが、売上げは伸び悩んでいました。そこで、顧客の購入行動を調査したところ、消費者はテレビCMよりも、店舗で商品を見たときに3秒から7秒で決断することが多いことが分かりました。
つまり、テレビCMなどの広告よりも、店舗での商品の見せ方や売り方が重要だということです。商品のパッケージや陳列棚のデザイン、店員の接客や説明、ポップなどのインストアプロモーションを工夫することで、消費者の購入意欲を高めることができます。
P&G社はこの発見をもとに、FMOT部を設立し、テレビCMの予算を減らして店舗でのプロモーションに力を入れました。その結果、売上げを大きく向上させることができました。
- ▷SMOT
SMOTとは、米P&G社が提唱したSecond Moment of Truthの略語です。これは、消費者が商品を購入してから実際に使ってみたときの感想や印象を指します。
消費者が商品を使って満足できなかったり、期待外れだったりしたら、次回はその商品を選ばなくなる可能性が高いです。ですから、商品の開発や販売においては、商品の特徴や機能だけでなく、消費者が商品を使うことで得られる体験や感情にも注目する必要があります。
特徴や機能は、体験を生み出すための手段に過ぎません。消費者にとって本当に大切なのは、商品を使ったときにどんな気持ちになるかということです。
- ▷ZMOT
ZMOTとは、Zero Moment of Truthの略で、インターネットでの情報収集が購買行動に影響するという考え方のことです。
この考え方は、2011年にGoogleによって提唱されました。ZMOTでは、店舗に来る前にインターネットで商品に関する情報を検索し、SNSや口コミサイトなどで他の人の意見を参考にして、購入する商品や価格を決めているという現象を指摘しました。
ZMOTは、PCやスマートフォン、タブレット端末などの普及によってインターネットが日常生活に浸透したことが背景にあります。インターネットでの情報収集は、消費者の意思決定において重要な役割を果たすようになりました。