魅力のないもの、つまらないものを表現するときに使う言葉の一つが「一本調子」。 延々と同じリズムで話す先生の授業は睡魔との戦いであった、そんな学生時代の思い出を持った方も多いのでは?最近の授業は、動画や生徒同士のデイスカッションなどを取り入れることで、「一本調子」にならないように工夫されているそう。
ビジネスの場では、論理的に話すことが求められることが多い。確かに相手にわかるように説明をする場合は、話の内容は論理的でなければなりません。ただ、論理的な話し方は気をつけないと「一本調子」になってしまいます。営業の現場で、長々と「一本調子」の説明を受けると相手は苦痛でしかないのです。
話のリズムに変化を与える方法の基本は“スイッチング”にあるといって良いでしょう。例えば、昔の刑事ドラマの取調室で、優しい刑事と厳しく追及する刑事が交互に犯人の心を揺さぶる、学校の先生が授業では標準語で淡々と進めているのに授業の合間や廊下では方言丸出しで話すと言ったように態度が大きく変化させる。または、一つの話をするときに、途中でわざと話を脱線させたり、例え話を挿入したりして、内容を“飛ばす”。話のリズムのスイッチが切り替わるようにポンと変わるので“スイッチング”と言います。うまいセミナー講師は話の展開でこの“スイッチング”を上手に活用しています。相手をこちらの話に引き込む上で重要な要素です。
さて、姿勢の“スイッチング”について。
話し手は言葉のリズムや内容を変えることでスイッチングを行い、相手を話に引き込んでいきます。一方聞き手は聞く態度を変えていくことで、場のリズムを整え、もしくは変化させることで相手が話しやすいようにしていきます。聞き手の聞く態度を変えることをここでは“姿勢のスイッチング”と呼んでいます。
姿勢のスイッチング
笑顔と真顔
サービス業の従業員さんはいつもニコニコと笑っている訳ではありません。当然相手の話の内容に合わせて笑顔でいたり真顔になって真剣に話を聞いたりしています。笑顔・真顔というと顔の表情の変化とお考えの方が多いようですが、感情表現ですので本来は全身で表現するべき行為です。
話を聞く態度
私たちは無意識のうちに、強い興味を持った話は前のめりで、少し疑ったり、じっくりと熟慮しながら話を聴きたいときは少し体を後ろに倒したりしています。また、話の内容に合わせて相槌を打ったりしています。自然と話の内容に合わせて反応されていらっしゃると思いますが、傾聴のスキルではこれを意識して少し大袈裟に演技するようにします。セミナーの講師をしていると、ある程度お年を召した方の中には、相手の話にほとんど無反応な方がいらっしゃいます。後でご本人にお尋ねすると、私の話をよく吟味しながら聞いているとのこと。意識が自分の内に向かっているので外に向かってのレスポンスをおろそかにしておられるものと考えてはいますが、セミナー講師としては聞き手が無反応だと、こちらの話をどの程度ご理解していただけているのかわからず、とても話しづらい状況です。人と接する仕事である以上相手の話を聞くのも仕事の一つです。相手が話しやすい態度を演じるというのも大事な要素なのです。
ステイタスの上下
「ステイタスの上下」とは元々は演劇で使う用語。ステイタスとは社会的地位という意味の言葉ですが、俳優はある人物を演じる時その人物のステイタスの高さを、相手との目線の高さで表現しています。例えば、“王様”の役ならば背を伸ばし目線を高くし堂々とした人物を演じ、“乞食”であるならば背中を丸め、腰をかがめることで目線を低くします。そうすることで相手との上下関係を表現します。
目線の高さはコミュニケーションをとる上でとても大事な要素です。例えば、小さなお子様とお話をする際には、大人はしゃがんで子供と目線の高さを合わせますよね。これは目線の高さを同じにすることで相手に安心感を与えています。
昔から、営業はいわゆる“腰が低い”人でなければならないと言われてきました。なぜなら相手に取引の主導権を握っているように思わせ、相手に優越感を抱かせるようにしむけなければならないからとのこと(そうサラリーマン時代会社から説明されていました)。“営業マンは背が低い方が有利である”と言われている根拠です。
とは言っても、このことは背の高い人が、背を低く見せるために卑屈な姿勢を取り続けなければならないということではありません。なぜなら、営業は自分を売り込むことから始める。人に好かれるには、自分らしさを表現しなければならない。卑屈な姿勢をとりつづけていたならば、それはとても難しいからです。私が新入社員時代に配属されていたお店で成績トップの方は身長180cmの方でしたが、要所要所で目線の高さを変えることでうまくお客様との距離をコントロールされていました。
二つの辞儀の仕方
新人教育で片方のお辞儀仕方しか教えていないところがあるようですが、本来お辞儀の仕方は二通りあり、営業の現場ではそれらを使い分けるべきです。
一つの方法は、会釈の時は15度、敬礼は30度、最敬礼は45度と上半身の傾け方を用途に応じて使い分ける方法。明治時代に小笠原流の作法を三越デパートが従業員にさせたことから広まったと言われています。これは少し離れたところにいる相手に対しておこなうお辞儀です。相手からは自分の全身が見えている状態で、相手に不快感を与えないように全身で持って礼儀正しい所作をするための方法だと言えます。言い換えると自分を“綺麗”に見せるお辞儀の仕方。このお辞儀の仕方を指導するときに気をつけなければならないことは、お辞儀をする人は頭の角度に意識がいく、言い換えると自分に意識を向けてしまい、相手に対しての意識がなくなってしまうことです。そうなると何のためのお辞儀なのかわからなくなってしまうのでそうならないように注意することがとても大事です。
もう一つは、とにかく相手の目線よりも頭の位置を下げる方法。お辞儀とは頭を下げることで相手に敬意を示す行為です。したがって、相手が自分に対して頭を下げてもらっているということを実感できなければ意味がありません。例えば、背の高い人が背の低い人に向かって、あるいは立っている人が、椅子に座っている人に対して目の前でお辞儀をする際、いくら45度で最敬礼をしたとしても、相手の目線よりも高い位置に頭があったのでは、相手に威圧感を与えてしまいます。目の前の人にお辞儀をする時は、例え側から見て不格好に見えたとしても、背の高い人は足を折り曲げてでも相手の目線よりも頭を低くする必要があります。
つまり、姿勢は相手との距離に応じて2つのお辞儀の仕方を使い分ける必要があるということ。距離がある時は、相手への(第一)印象を良くするために、自分を綺麗に、魅力的な存在と認知してもらうために、良い姿勢をとる。一方相手の目の前にいる時は、ずっと腰をかがめた状態でいるというのは不自然なので要所要所で、相手の目線の高さまで姿勢を下げ威圧感を消すようにする。これが正しいお辞儀の仕方の指導だと考えます。
姿勢の“スイッチング”は日常会話の中で、無意識的に行われています。しかし、その場その場で意識して“姿勢をスイッチング”させることは、コミュニケーションの戦略を立てる上でとても重要なファクターなのです。