お客は商品を見ていない

お客様は商品を「よく見ていない」。
師であるカリスマ店長に最初に言われた言葉。お客様は商品を“よく見て・よく吟味して”から買うものと思い込んでいた私には全く訳のわからない発言だった。
しかし、買い物されるお客様の行動を観察していくと、「よく見ていない」はとてもとても正しい。当時の私は売り上げ不振で苦しんでいたけれど、何が間違っていたのか初めて理解することができた。
例えば次のようなお客様の行動を見た。”きゃ、これかわいい〜”と目をキラキラさせながら子供服を手に取ったお母さま。しかし次の瞬間、顔の表情が消えて「これと似た服なかったかしら」とか「買ってもお金大丈夫かしら」とか考え始める(と観察しているとそう見える)。しばらく顔の表情がなくなったまま考え続け、頭の中でOKが出ればカゴに入れ、そうでなければ棚に戻す。そういう光景は行動観察をしているとよく見かける。
また例えば、スーパーで買い物をしていると、腰の曲がったおばあさんが鶏肉のパックを買い物カゴに入れかけたがそこで手が止まり、鶏肉は陳列棚に戻すべきかカゴにそのまま入れるべきかしばらく棚とカゴの間を行ったり来たりしているのを見かけたことがある。おそらくは、カゴに入れようとはしたけれど、「これで美味しい料理が作れるかしら」とか「鮮度は大丈夫かしら」とか考えているのだろう。
日常生活の97%は直感により無意識のうちに決められている。私たちは自分が理性的な人間で、いつも理性で判断していると思っているがそれは間違った認識。
モノを買う際は、商品を見て「これいいわね」と思わず手に取る瞬間までは無意識的な直感で判断しているが、その後買うか買わないかを決める段階になって初めて理性が働き、色々と検討を始める。
つまりパッと見て反応している段階ではお客様はまだ商品を「よく見ていない」。直感はその人の欲求や感情に影響されるので、どちらかというと車のアクセルのような働きをしている。
一方理性とは、色々と考えること。理性は失敗を避けるため商品の価格や品質や他の選択肢など様々なことを「よく見て」検討する。理性はどちらかというと購買意欲を下げるブレーキとして機能することが多いので、理性が強く働けば、お客様は商品を買う可能性が低くなる(理性が納得し安心すればそのまま買う)。売れるようにするとは、直感に“働き”かけて心の中のアクセルを踏ませ、理性に「働き」かけて心の中のブレーキを解除すること。私の間違いは、直感に“働き”かけることをしていないことだった。
4つの購買行動
お客様から選ばれるかどうかはお得感(=価値―価格)にある。ただ、お客様にとってこだわりが強い商品もあれば、そうでないものもある。こだわりが強いものはその人にとって価値があるかどうかが重要視されるが、そうでないものは価格が見合っているかどうかが重要視される。一方お客様の購買決定は、上記の通り、直観的に判断される時と、理性重視で判断される時がある。したがって、価値・価格を縦軸に直観・理性を横軸にとって分類すると、お客様の購買行動は4つに分類することができることになる。
今井 彰.(→プロフィール)
Con(隣に)+sult(座る)+ant(物)・中小企業診断士
兵庫県尼崎市を中心に活動しているコンサルタント。あえてcon(ともに)+sult(座る)+ant(者)と名乗っている。なぜなら、“どうしたんだい?”と言って悩んでいる人の隣に座り、一緒になって考えたりアイデアを出したりするのがコンサルタントの本来の姿だと考えるから。対応範囲は小売飲食の売上向上策から製造業の販路開拓まで、またそれに付随する人材育成。30年以上に渡り、モノを売る技術(買う気・やる気の作り方とその伝え方)について実践の中でノウハウを培ってきた。同志社大学商学部卒。