モノ作りの現場とモノ売りの現場では「付加価値」の定義が違っている

“売れるためには付加価値の高い製品づくりが必須である”という言葉をよく聞きます。たしかに選ばれる理由を作る上で「付加価値が高い」ことは必須だといえます。
ところで、生産現場で生産性を考える場合と営業やマーケティングを考える場合とでは付加価値の定義が違うことはご存知でしょうか?
ちなみに、付加価値の考え方が2つある理由は、経済学の客観的価値説(労働価値説)と主観的価値説(効用価値説)と2つの考え方があるためです。
生産現場で生産性分析の際に使われる定義
製品価格から外部購入価値(外注費や材料費や運送費など)を引いたモノ。ざっくりいうと、企業が努力して付け加えたモノ、努力の代価と言えます。生産性分析では下記のような式で求められています。
- 中小企業庁方式
- 付加価値 = 売上高 - 外部購入価値
- 日銀方式
- 付加価値 = 経常利益 + 人件費 + 貸借料 + 減価償却費 + 金融費用 + 租税公課
この考え方の背景に本来あるのは、その商品を作り上げる労苦が、その商品の価値であるという考え方です。素人がDIYで作った家具とベテランの職人が作った家具とでは、その品質がちがっており、当然その価値も違っているという考え方です。
マーケティングや戦略立案の際に使われる定義(別名:創出価値)
製品の持つ価値と、その製品をつくるために使われた価値の差のこと。次の式であらわされる。
創出価値=消費者の知覚便益(ベネフィット)― 投入物の費用
お客様が商品を買うのは、その商品から得られるメリット(その商品から得られる効果)が欲しいからである。メリットの結果得られるベネフィット(※)とその実現のために投入された費用との差が付加価値(創出価値)ということになります。
※メリット(直接得られる効果)とベネフィット(効果からもたらされる結果)の違いをダイエットに例えるなら、10kg痩せるというのがメリットで、その結果、今まで這入らなかったジーンズが這入るようになる、というのがベネフィットである。
ちなみに、この式は、創出価値=(消費者の知覚便益―価格)+(価格―投入物の費用)と変形できます。
この図を思い出していただくと、
消費者の知覚便益―価格=消費者余剰(消費者の利益)
価格―投入物の費用=生産者余剰(生産者の利益)
となるので、「創出価値=消費者の利益+生産者の利益」となります。
この考え方と生産性分析の際の考え方との1番の違いは、顧客の利益まで考えることにあるといえます。
この2つの付加価値の考え方を図示すると次のようになります。
生産現場で親しみがあるせいか、付加価値を高めるというと生産性分析で使う付加価値の定義のみで考える人が多いようです。“品質が高いものに価値がある”市場ならそれで良いのですが、今一般消費者向けの商品は品質だけでは勝負になりません。
お客様に選ばれるには、よりお得である(より消費者余剰がある)ことが求められます。付加価値のもう一つの考え方で商品開発やビジネスモデルを作り上げていく必要があるでしょう。
個人的な考えですが、海外企業の工場も日本と同じような設備を導入し社員の技術向上に努めています。品質だけで付加価値を作り上げるビジネスモデルは、よほど職人の技術が高いなど他の追随を許さない特徴を持たないのならば、そろそろ限界がきているのではないかと考えます。